卒業論文の書き方完全ガイド販売開始!シリーズ1冊目は『卒論を書く前に知っておきたい6つのこと』
昨今、研究における倫理的配慮が強く求められるようになってきています。背景には、アメリカや欧米圏における倫理的配慮の加速や、研究者の不正論文などが相次いで告発されるようになったことがあります。
これは、大学院以上の研究者だけではありません。卒業論文であっても、倫理的配慮が欠けた論文は受理されない世の中になってきています。またあとで配慮が欠けていることがバレた場合には、最悪、学位を剥奪されることもあるでしょう。
そこで今回は、倫理的配慮とは何か、何に気を付ければいいのか、倫理的配慮することを示す文章はどう書けばいいのかなどをわかりやすく解説していきます。
卒業論文の書き方を0からわかりやすく解説-大学院博士課程学生が疑問に答えます-
倫理的配慮とは?研究する際に責任をもって守るべきルールとするべき配慮
倫理的配慮とは、簡単にいうと「研究する際に研究者が責任をもって守るべきルールと、行うべき配慮」のことです。
研究は、1人でできる営みではありません。その過程では、調査対象者、共同研究者、先行研究を書いた研究者、出版する際には出版関係者など多くの人との関りがあります。倫理的配慮とは、これら研究に関わる全ての人たちが不利益を被らないように研究者が責任をもって行うべき配慮を指しています。
また私たちの研究活動の多くは、研究費や大学施設をはじめとして多くの社会的な支援によって成り立っています。よって、研究する人はその結果や研究に社会的責任を負わなければなりません。
特に医療系や看護系、心理学系の分野では強く求められるようになってきており、参考になる本も多数出版されています。これらの分野の人もそうでない人も、論文を書く際には、ぜひ1冊買って手元に置いておきたいところです。
このほかにも、論文執筆時におすすめの本をこちらの記事で紹介しています。興味関心ある方は、ぜひあわせて読んでみてください。
卒論/卒業論文を書く前に読みたいおすすめ本14選-文系理系別有/書き方やコツがわかる-
研究時に気を付けるべきことリスト
ここからは、具体的に配慮すべき事柄についてみていきましょう。以下のリストは私が思い当たる倫理的配慮すべき事柄です。漏れているものもあるかもしれませんが、中には「そんなことも配慮しないといけないの!?」と思うようなものも入っているかもしれません。
配慮にし過ぎということは無いので、研究する際には、ぜひこのリストをチェックリストとして活用し間違ったことをしていないか確認してみてください。
- 先行研究を調べて活用しているか
- 嘘をついていないか
- 研究フィールドや研究対象者が特定されたら問題になる場合は、特定されないように配慮しているか
- 研究対象者の個人情報を保護しているか
- 研究情報は漏洩しないように管理しているか
- 捏造や改ざん、剽窃を行っていないか
- 研究対象者への説明と同意を得たことを記載しているか
- 研究が個人や社会に与える悪影響を同定し、回避しているか
- 著作権等の侵害はないか
以下の記事では、リスト内で挙げた「参考文献の引用方法」や「剽窃」について、失敗しないようにより詳細に説明しています。心配な方は、ぜひあわせてご覧ください。
卒論 参考文献の書き方をわかりやすく解説!文字数・書き忘れない方法など
剽窃とは何か?卒業論文で盗用やコピペは絶対NG!定義や避ける方法を解説
倫理的配慮することを研究計画書の中で示すには?例文を紹介
ここまで倫理的配慮についてみてきましたが、皆さんが実際に困るのは次のような瞬間だと思います。
- 研究計画書の中で、倫理的配慮についての計画を書かないといけないけど書き方がわからない!
- 卒論とあわせて、別紙で倫理的配慮についての書類を出さないといけない!
- 学振の申請書類の倫理的配慮欄の書き方がわからない!
そこで今回は、私が学振に出した書類の倫理的配慮欄に書いた内容を、ほぼそのまま公開したいと思います。以下が倫理的配慮に書いた内容です。なお学振では、倫理的配慮は「人権の保護及び法令等の遵守への対応」というページに書くことになります。
本研究では、インタビュー調査、および職業、家族構成、所得、持ち家の有無などの基本属性の回答を含む質問紙調査とデータ分析において個人情報を扱う予定である。関係者のプライバシー保護や人権の保護に最大限の配慮をする必要がある。この点に関しては、「個人情報の保護に関する法律」等の法令、その他の規則、倫理規定を順守し、最大限の注意を払うものとする。
まず一段落目です。ここでは、研究の調査方法と扱うデータについて触れています。本研究において倫理的配慮が重要であること、またそれを自覚していることを示したうえで、「個人情報の保護に関する法律」などに則って調査研究を行うと書いています。
インタビュー調査に際しては 、利用目的や講ずる措置を対象者に対して十分に説明し、実施者の問い合わせ先等を明示したうえで、必要な範囲の個人情報に限り、情報を収集する。調査の承諾は必ず書面を通して行い、調査中であっても調査対象者からの要望があった場合、録音は停止する。質問紙調査においては、個人情報が研究計画に反して外部に漏洩しないように、調査によって得られた情報の一部(氏名・住所等)を削除し、必要なデータのみ数値化し保存するなど、第三者に対象となった個人を特定できない形で推計する。
二段落目では、具体的にどのように倫理的配慮を行うのかを書いています。ここは各自の研究手法によって変わってくるので、適宜修正しつつ参考にしてみてください。筆者の場合は社会調査の中のインタビュー調査(質的調査)における倫理的配慮を書いています。
個人情報の適切な管理においては、外部への流出を防止するのみならず、情報の紛失、破壊、外部からの不正なアクセス等の危険に対して安全対策を実施し、調査対象者の個人情報の保護に努める。映像・音声データや集計した調査表などのデータは、インターネットを介した流出の可能性がないよう、外付けハードディスク等に保存し、ファイルにもパスワードをつけロックをかける。
三段落目では、収集したデータの扱い方について触れています。「そこまでするか?」と思う人もいるかもしれませんが、最大限できることはやりましょう。また実際に調査研究を始めてみて当初の計画通り進めるのが難しいとなった場合には、速やかに変更の手続きを踏みましょう。
論文執筆・学会報告の際は、発表前に内容の確認を協力者にできる限り依頼する。さらに聞き取り データなど特に個人のプライバシーに関わるものに関しては、対象者にも直接確認を依頼する。以上の配慮のもと、「○○大学研究倫理規定」「日本社会学会 日本社会学会倫理綱領」に従って調査を行う。
最後の四段落目では、発表前に行う手続きと、どのような規定に従って倫理的配慮を行うのかを示しています。筆者の場合は、自分の大学の規定と、所属する学会の中で最も倫理要綱がしっかりと定められた日本社会学会のものに則ることを示しています。
最後に-心配な場合は研究倫理審査委員会を通しましょう-
今回は、研究の倫理的配慮についてみてきました。特に医療系や心理学の分野では倫理的配慮が強く求められるようになってきています。例えばこれらの分野で「これって本当に、この手法で研究進めていいのかな…?」と不安になった人は、大学が設置する研究倫理審査委員会を通してみるのはいかがでしょうか。
担当教員に相談すれば審査の必要有無を判断してくれると思うので、もし必要な場合は速やかに審査書類を提出し委員会で審査してもらうのが良いと思います。他の分野ではそこまでの手続きを踏む大学はまだ多くないように思いますが、心配な場合は他の分野の方もぜひ活用してみてください。